生体腎移植への取り組み

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生体腎移植への取り組み

生体腎移植のメリットは早期に手術が受けられること、手術の予定が決められるので十分な検査、準備ができることがあります。そのため手術の安全性が増し、成績も良好です。最近は免疫抑制剤の進歩と相まって、全くの他人である夫婦間の移植や、血液型の違う移植、二次移植なども施行できるようになり、その成績も通常の移植と変わらない状況です。最大の問題点は健康人であるドナーを手術することですが、その安全性や体の負担には最大限の配慮をしています。

生体腎移植ドナーの基準

まず生体ドナーは患者の親族であることが条件になります。親族とは6親等以内の血族、3親等以内の姻族を指します。例えば内縁状態で長年夫婦同然の生活をしていても入籍していなければドナーにはなれません。また健康人であるドナーを手術する以上、身体的安全を確保する必要があります。十分注意して手術を行うことはもちろんですが、腎臓が一つになっても長期的に影響が生じないように配慮する必要があります。生体ドナーの基準については日本移植学会のドナーガイドラインで厳しく決められており、これらを満たした方だけがドナーになることができます。

さらに上記に加えて当院では、体重がBMI27以下、喫煙者は生涯禁煙、抗凝固剤術前休薬可であることを追加の条件としており、より厳格にドナーの安全性確保に努めています。
また倫理的社会的基準として、臓器提供はあくまでも自発的な医師であり、強制や金品の授受などを伴わないこと、未成年者や精神障害者など自らの意思を明確にできないものはドナーになれないという基準もあります。特に金品の授受は臓器売買とみなされる場合があり、法律(臓器移植法)で厳しく罰せられることになります。ドナーとの関係性を確かめるために、本人確認や戸籍謄本の提出などをお願いしています。また移植コーディネーターや臨床心理士との面談でのドナー臓器提供が自発的意思に基づくものであることを確認します。

術前検査

移植手術で大事なことは安全に治療を行うことです。移植を行うことで、却って重大な不都合が生じることは避けなくてはいけません。そのため移植を希望される方には術前検査を行い、移植手術が安全に行えるかどうかを確認する必要があります。検査の結果によっては、移植前に治療を必要としたり、残念ながら移植ができないということもあり得ます。以下に必要な検査を説明します。

ダイレクトクロスマッチ検査(組織適合性検査)

まず最初に行う検査で、ドナーとレシピエント2人の血液を直接混ぜ合わせて反応が起こるかどうか見るものです。結果が陽性と判断された場合は、移植後に激しい拒絶反応が起きることが予想され、この組み合わせでは移植はできません。ただしほとんどの方は陰性です。血液を県外の施設に送って調べるため結果がでるまでに約1週間かかります。約47,000円の実費がかかります。(これは後日腎移植に至った場合、返金されます)

血液・感染症検査、尿検査

一般的な健康状態を調べます。栄養状態、肝機能、腎機能、血糖、コレステロール、中性脂肪、尿酸値、貧血、尿糖、尿蛋白、感染症の有無などを見ます。また症状はなくても特殊なウイルス(HIV、HTLV-1など)を体内に持っている場合は、術後発病する事があり移植はできません。ダイレクトクロスマッチ検査の採血のとき同時に行います。保険診療で約1,0000円かかります

ドナー検査

ドナーの検査の目的は主に3つあります。ドナーは健康であることが必須条件で、腎臓提供によって健康が損なわれる可能性がある場合には、ドナーにはなれません。

  1. 術前一般検査 全身麻酔の手術が安全に行えるか検査します。 心電図、肺機能、レントゲン検査、心エコー (循環器内科や呼吸器内科の先生に診察してもらう場合もあります)
  2. 腎機能検査 腎臓が1つになっても大丈夫か確認します。また左右どちらの腎臓を提供するか決めます。 (原則機能が良い方をドナーに残しますが、左右ほぼ同じ機能なら通常は左腎を摘出します) 腎シンチグラム、クレアチニンクリアランス(24時間蓄尿)
  3. 癌検診/人間ドック 体内に癌が潜んでいる場合、移植によって癌細胞も移る可能性があります。 胸部CT、腹部造影CT、胃カメラ、大腸カメラ 女性:乳癌検診、子宮癌検診  男性:前立腺癌検査(採血) ※ 癌が見つかった場合は、まず癌の治療が必要ですのでドナーにはなれません。 ※ 癌の完治が確認された後には、ドナーになれます。
生体腎移植術前:ドナー

レシピエント検査

レシピエントはできるだけ良い全身状態で手術に臨む必要があります。必要であれば術前に治療を行ってから移植を行う場合もあります。また術後免疫抑制剤を内服するため免疫力低下を想定した術前準備が必要になります。

  1. 術前一般検査(特に心機能) 全身麻酔の手術が安全に行えるか検査します。特に透析患者では心機能が低下している場合が多く、十分な評価が必要です。 心電図、肺機能、レントゲン検査、心エコー、冠動脈石灰化CT、循環器内科受診 (負荷心筋シンチや心臓カテーテル検査まで必要になる場合もあります)
  2. 感染症検査 症状はなくても体内に細菌が潜んでいる場合、免疫抑制剤内服によって菌が増殖し体中に広がる可能性があります。致命的になることもあるので術前に治療が必要です。 耳鼻科受診、眼科受診、歯科受診、結核検査
  3. 癌検診/人間ドック 症状がなくても体内に癌が潜んでいる場合、免疫抑制剤内服によって癌細胞が急速に増大する可能性があります。胸部CT、腹部造影CT、腹部エコー、甲状腺エコー、胃カメラ、大腸カメラ 女性:乳癌検診、子宮癌検診 男性:前立腺癌検査(採血)
  4. 膀胱機能検査 移植した腎臓は元々の膀胱につなぎます。現在は腎不全により尿が少ないため膀胱はあまり働いていませんが、術後十分働いてくれるか確認しておきます。 泌尿器科受診、膀胱造影検査 (膀胱から元々の腎臓への逆流がひどい場合は、移植手術時に原腎を摘出する場合もあります)
  5. その他 頸動脈エコー、骨密度検査、糖尿病検査
  • 癌が見つかった場合は治療が必要ですので移植はできません
  • 癌が完全に治った後には、移植をうけることができます。
生体腎移植術前検査:レシピエント
CT画像レシピエント

上記の検査が全て問題なければ移植手術が可能です。ドナーの必須検査費用は、後に移植を行った場合、保険でまかなわれるため本人に直接請求することはありません。しかしながら何らかの理由で移植に至らなかった場合には、それまでの検査費用を全額実費で請求させていただきますので事前に御了承ください。 また移植の保険でまかなわれるドナー検査は基本検査のみです。検査で病気が疑われ精密検査が必要となる場合は、(その検査費用に限って)自己負担での診療となりますので御了解ください。また人間ドック(癌検診)を受診して悪性疾患がないことを確認してもらいますが、検査費用は同じく本人負担となります。

移植の費用