腎移植について

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腎移植について

腎移植のメリット

腎移植を行うことで得られるメリットはいくつもあります。透析が不要になることで、通院の束縛がなくなり、水分、食事の制限がほぼなくなり、かなり自由になります。また透析による合併症がそれ以上進行することもありません(すでに生じている合併症が元に戻る訳ではありません)。女性であれば妊娠、出産の可能性が高まります。国が透析患者に費やしている医療負担も軽減されますので医療経済にも貢献します(移植をしても更生医療は適用されます)。しかし、何より最大のメリットは、移植を受けると長生きができることです。一般的に透析導入後の10年生存率(10年後に生きている人の割合)は36%です。15年生存率は24%しかありません。最近は高齢での透析導入が増えているということもありますが、これは透析を続けることで合併症が進行し、全身状態が悪化していくことに起因しています。一方で腎移植を受けた方の場合、年齢分布が違うので一概に比較はできませんが、生体腎移植で10年生存率92%、15年生存率88%と透析を続けた方より良好な生存率が得られます。腎移植は腎不全の根本的治療法なのです。

長期生存率

主なメリット

  1. 透析治療からの脱却(時間的、精神的自由)
  2. 社会復帰、食事・生活制限の緩和
  3. 生命予後の延長(長生きができる)
  4. 透析合併症の進行を遅らせる
  5. 妊娠・出産の可能性
  6. 医療経済への貢献

腎移植のデメリット

移植を行う上で問題となる点もいくつかあります。まず手術を受けなければ行けないということと、少ないですが手術による合併症が生じることもあります。臓器の拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤を内服する必要がありますが、薬の副作用や免疫力低下で感染症に弱くなるといった心配もあります。生活が自由になる代わりにしっかりとした自己管理ができないと腎機能に影響します。また現在の医学では移植した腎臓を永久に持たせることはできません。いずれは機能が廃絶し透析に戻る可能性はあります。しかしながらこれらの合併症や副作用を最低限におさえ、腎臓に優しい生活環境を心がけてできるだけ長く機能を維持出来れば、人生の大半を透析なしで元気に過ごすことができます。

腎移植のデメリット

  1. 手術を受ける必要がある(耐術性の問題)
  2. 免疫抑制剤の副作用
  3.  感染症の危険性
  4. 自己管理の徹底
  5. 精神的不安定
  6. 移植腎は永久ではありません → 透析再導入

しかしこれらは医療の進歩によりかなり克服されてきています

腎移植の種類(献腎移植と生体腎移植)

腎移植の最大の問題は、腎臓を誰からもらうかということです。この腎臓提供者をドナー、移植を受ける人をレシピエントといいます。腎移植はドナーの種類によって、献腎移植と生体腎移植に分けられます。通常、正常な腎臓は1個あれば、それだけで体の機能を十分に維持することが可能です。

献腎移植

死亡後に本人もしくは家族の希望で善意の腎臓提供があった場合に、あらかじめ日本臓器移植ネットワークに登録している患者の中で、最も優先順位の高い方に腎臓が移植されます。心停止後に提供される場合と、脳死後に提供される場合とがあります。腎臓が2個あるため一人の提供で2名の登録患者が移植を受けることができます。この献腎移植はネットワークが認定した施設でのみ行われます。

生体腎移植

患者の親族の中に自らの意思で腎臓の提供を希望されている方がいる場合、その方の全身状態および腎機能が医学的に問題ないことを条件に、1個の腎臓を摘出して移植を行います。診療体制が整っている病院であれば施行可能です。日本移植学会の倫理指針では、生体移植は親族からの提供に限るとされており、親族とは、6親等以内の血族、3親等以内の姻族(配偶者側の親族)と定義されています。

生体ドナーの範囲

どちらを選ぶかは個々の環境によりますが、現在の大きな問題として献腎移植の場合、移植を希望して登録されている患者はたくさんいますが死亡後に臓器提供を希望されるドナーの方が少ないため、移植を受けるまでの待機期間が非常に長くなっている状況があります。一方で生体腎移植の場合、早期に移植が可能ですが、安全性に最大限配慮しているとはいえ健康な方を手術しなければならないという点が最も問題になります。

生体腎移植と献腎移植の比較

日本での腎移植の状況

我が国での移植医療の状況はどうなっているのでしょうか。現在、全国で約33万人の透析患者がおり、約12,000人が献腎移植に登録しています。腎移植件数は年々増加しており、2017年に全国で1742例の腎移植が行われています。そのうち献腎移植は198例(11%)、生体腎移植は1544例(89%)でした。献腎での提供者が少ないため、透析患者が体の機能を回復するためにはそのほとんどを生体腎移植に頼らざるをえないのが実状です。2017年に腎移植を行った施設は全国で140施設あります。そのうち84施設(60%)が年間9例以下で、10例以上施行した施設は56施設(40%)でした。20例以上に限ると20施設(14%)しかありません。しかし移植件数でいうと年間10例以上の56施設で全体の81%を占めています。つまり少数の施設がたくさんの患者を治療している状態であり、そのことが移植医療のレベルアップ、安定した成績に繋がっています。

腎移植件数の推移

移植後の腎臓がどれくらいの期間機能するかは、生着率(移植後透析導入になっていない人の割合)で表します。生着率は年代毎で格段に向上しています。理由としては第一に免疫抑制剤の進歩が挙げられます。以前には存在しなかった薬剤が次々に開発され、拒絶反応を抑えることで長期間移植腎機能を保持することができるようになっています。2000年代以降の生着率は、生体腎移植で5年94%、10年86%、15年76%、献腎移植で5年83%、10年71%、15年48%となっています。

腎移植の適応について

自分は移植を受けられるのだろうかと心配している人はいませんか。基本的には、腎不全患者であって自らの意思で移植を希望されている方全員が移植の対象となります。これに加えて生体腎移植の場合は、自らの意思で腎臓の提供を希望されている家族がいることが条件となります。夫婦間の移植であったり、ドナーと血液型が違っていたり、原疾患が糖尿病であったり、以前に移植を受けて透析に戻ってしまった人なども移植を受けることは可能です。また年齢の上限はありませんが、術前検査で手術可能と判断されれば移植を行えます。これまでの当院の移植最高齢は73歳の方です。

ただし以下のような方は移植をすすめることができません。移植を行うことでかえって体を悪くしてしまいます。

  1. 治癒していない、または治療後間もない悪性腫瘍(癌など)を持っている場合
  2. 全身麻酔を含めた大きな手術に耐えられない心機能や肺機能であった場合
  3. 慢性または活動性の感染症を持っている場合
  4. 性格や気質、精神疾患により通院したり内服などの自己管理ができない場合
  5. その他医学的に移植が不適と判断された場合(クロスマッチ検査陽性など)

拒絶反応について

移植された腎臓はたとえ家族から提供されたものであっても厳密にいうと他人のものなので、体に侵入した異物(細菌やウィルスなど)を排除しようとする「免疫」というシステムが働きます。通常の生体では体を守るための大変重要な機能ですが、移植の場合これを拒絶反応といいます。拒絶反応がおこってしまうとせっかく移植した腎臓が機能しなくなってしまうので、免疫抑制剤を内服することで免疫機能を抑制し拒絶反応を抑えるわけです。従って移植腎が働いている限りは、免疫抑制剤を内服し続ける必要があります。また拒絶反応が起こっても早期に診断、治療ができれば殆どの拒絶反応は治療することができます。移植した腎臓が廃絶する理由として急性拒絶反応が原因のものは8.6%しかありません。
当院では2018年末時点で急性拒絶反応による腎廃絶は一例もありません。細菌は免疫抑制剤の進歩により、治療はもちろん拒絶反応自体の発生率もかなり低下しています。
しかしながら、重度の拒絶反応や治療抵抗性の拒絶反応の場合、おさまっても腎機能が低下したままであったり、そのまま機能廃絶にいたる場合もあります。また長い期間をかけて徐々に腎機能が低下する慢性拒絶反応については現在でも有効な治療法がなく、移植腎が永久に持たない最大の原因になっています。

移植腎が廃絶する理由

免疫抑制剤について

免疫抑制剤は移植において必須の治療薬ですが、副作用の多い薬でもあります。拒絶反応を抑えようとたくさん飲み過ぎると副作用で困ることになりますし、少なければ拒絶反応が起こってしまいます。従って移植医は拒絶にも副作用にも配慮した最も適切な量で薬を処方します。自己判断せず用法用量、服薬時間をきちんと守って内服することがとても重要です。副作用のほとんどは内服量の調節により予防可能です。以下に主に使用される免疫抑制剤を示します。拒絶反応にはリンパ球が大きく関与しますので、このリンパ球の働きを抑える薬剤がメインになります。

カルシニューリンインヒビター(CNI)

ネオーラル(シクロスポリン):CyclosporinA

リンパ球の増殖を強く抑制することにより免疫抑制効果を発揮します。免疫抑制療法のベースとなる薬剤です。副作用としては、腎障害、多毛、手指振戦、歯肉肥厚、高血圧などがあります。特に、内服が多すぎると腎機能障害が出現するため頻回に血中濃度を測定しながら内服量を調整する必要があります。1日2回12時間ごとに内服します。

プログラフ/グラセプター(タクロリムス): Tacrolimus

シクロスポリンと同様に、リンパ球の増殖を強く抑制することにより免疫抑制作用を発揮します。本薬剤はシクロスポリンの約10倍から100倍の作用があると言われています。免疫抑制療法のベースとなる薬剤です。副作用としては、腎障害、心毒性(不整脈、胸痛など)、糖尿病、消化器症状(嘔吐、下痢)、高尿酸血症などがあります。この薬剤も血中濃度を測定しながら内服量を調整します。プログラフは1日2回12時間ごと、グラセプターは徐放剤なので1日1回24時間ごとに内服します。

代謝拮抗剤

セルセプト(MMF)

リンパ球の増殖を抑制し免疫抑制効果を示します。非常に強力な薬剤で、特に重症の拒絶反応を引き起こす抗体の産生を抑制する作用があります。副作用としては、消化器症状(下痢、嘔吐)、食欲不振、貧血、白血球減少などがあります。作用が強すぎると感染症のリスクが増加しますので減量などの調整が必要になります。1日2回12時間ごとに内服します。

ブレジニン(ミゾリビン)

セルセプト同様にリンパ球の増殖を抑制します。作用・副作用ともセルセプトほど強くはありません。副作用として、白血球減少、食欲不振、消化器症状(嘔吐、口内炎)などがあります。1日2回12時間ごとに内服します。

ステロイド : Steroid

メドロールまたはプレドニン

免疫反応全体に抑制効果を持つ極めて重要な免疫抑制剤で、急性拒絶反応では治療の主役となります。ですが長期服用の副作用として顔が丸くなったり、肥満、糖尿病、白内障、胃潰瘍、骨粗鬆症、大腿骨頭壊死など多彩な症状を引き起こすため、できるだけ減量するようにしています。1日1回24時間ごとに内服します。

mTOR阻害薬

サーティカン(エベロリムス): Everolimus

細胞増殖シグナルであるmTORを阻害することでリンパ球の増殖を抑制します。腎移植で使用可能になったのは2011年と比較的最近で、免疫抑制効果以外にも、一部のウイルス抑制効果を有したり、血管平滑筋細胞増殖を抑制して血管壁の肥厚を抑える効果など多彩な副次効果にも期待できます。副作用としては、白血球減少や高脂血症、尿蛋白、消化器症状(下痢、口内炎)、浮腫などがあります。1日2回12時間ごとに内服します。

分子標的薬

シムレクト(バシリキシマブ): Basiliximab

注射薬で移植手術当日と術後4日目の2回のみ投与します。直接的な副作用はあまりなく、投与後アレルギー症状をおこす場合もありますが、ほとんど稀です。リンパ球の活性化を強力に抑制する作用があり、2回の投与で効果は約1ヶ月半持続します。頻度の多い移植後早期の拒絶反応を抑えるのに非常に効果的です。ほぼ全例で使用されています。

リツキシマブ(リツキサン): Rituximab

こちらも注射薬で抗体産生に関与するβリンパ球を特異的に抑制する薬剤です。元々はβリンパ型悪性リンパ腫の治療薬です。血液型の違う移植で問題となる抗血液型抗体を抑えてくれる効果があり、2016年に移植に保険適応となりました。当院では血液型不適合移植において全例で使用し良好な成績を収めています。副作用としては、アレルギー反応、肝機能障害、間質性肺炎、心障害、皮膚粘膜症状などが報告されていますが、いずれも頻度は低いものです。また白血球減少や血小板減少が5-10%で認められます。手術1週間前に200mgを1回点滴します。
それぞれの免疫抑制剤は拒絶反応の違った段階に作用するようになっており、組み合わせて使うことによって、より有効に拒絶反応を抑制できるように工夫されています。また薬剤を組み合わせて使うことによって、より有効に拒絶反応を抑制できるように工夫されています。また薬剤を組み合わせることにより各薬剤の使用量を減らすことができ、副作用を予防することもできます。上記の薬剤の中から通常3-4剤を組み合わせて内服してもらいます。
また移植後ずっと同じ量の薬を飲み続けるわけではありません。移植後3ヶ月は特に拒絶反応が起こりやすい時期ですので、しっかりとした免疫抑制が必要です。しかし時期が経ち、特に移植後1年をすぎるようになると拒絶反応の頻度はかなり減りますので、それほどたくさんの免疫抑制剤は必要ありません。従って副作用軽減のための薬の料は最小限まで少なくします。そうなると免疫力が回復し感染症リスクも低下します。

免疫抑制剤
免疫抑制剤プロトコル

移植後の生活について

移植がうまくいくと健常者の方とほぼ同じ生活が送れます。旅行や仕事、スポーツ(格闘技系は除く)、女性であれば妊娠・出産などほとんどすべての事柄が可能です。いくつかの注意すべき点がありますが、これらの多くは一般的な健康管理上必要なことで特別なことはあまりありません。毎日必ず免疫抑制剤を内服すること、腎臓に優しい生活習慣・食事を心がけること、欠かさず通院して医師のチェックをうけることなどです。移植後早期は、こまめな通院検査が必要ですが、腎機能が落ち着いた状態になると、1-2ヶ月に一度の通院でよくなります。ただ移植腎が機能している間は、5年、10年たっても免疫抑制剤を飲み続けないといけませんので長期の通院が必要になります。

移植の費用について

移植にはすごいお金がかかるのでは心配している人もいるでしょう。日本の病院で腎移植を行う場合、生体でも献腎でも保険診療になります。腎移植に関する医療費は健康保険や各種医療保障制度が利用できるので、自己負担額は低額で済みます。術前に透析を行っている方の場合、ほとんどが腎臓機能障害1級の身体障害者手帳を持っており、自立支援医療(更生医療)の助成が受けられます。また移植後も1級の等級は継続されますし、術前3-4級で認定されている場合でも移植後は1級になります。しかし障害年金を受給している方の場合、移植後しばらく(最低1年)は継続されますが、経過が良好で腎機能が安定していれば、減額もしくは支給停止になります。 一方ドナーについては、一部を除いた術前検査の費用、および移植のための入院・手術の費用は全てレシピエントの医療費に含まれますので、ドナーに直接医療費が請求されることはありません。ただし、移植の医療費に含まれないが、手術のために必要と判断される検査については、別途ドナーに請求することもあります。さらに何らかの理由で移植に至らなかった場合は、ドナーの検査を保険請求できませんので、かかった検査費用は全額自己負担になることを御了承ください。移植後はドナーも健康管理のため定期的な通院をお願いしています。その時の医療費は自分の健康保険での支払いとなります。