当院の治療成績

診療科・部門

当院の治療成績

手術成績

心臓・胸部大動脈瘤手術における術場抜管率

MICS資料1
MICS資料2
MICS資料3

当院では 低侵襲心臓外科手術(以下MICS: Minimally invasive cardiac surgery)に力を入れております。MICSは手術創が通常の開心術に比べて小さく、術後の回復が早く、美容的にも優れた手術です。当科における治療経験から、術後在院日数は7-10日となります。基本的に胸部の骨を切開・離断しませんので術後の運動制限はありません。 当院における対象疾患は、1) 単枝および多枝冠動脈硬化症、2) 心臓弁膜症全般、3) 上行大動脈瘤、4) 心房中隔欠損症および心臓腫瘍、であります。MICSが可能かどうかは患者さんの体つき(胸部の解剖学的な条件)および全身状態から判断されます。

1) 単枝および多枝冠動脈硬化症

当科では積極的にMICS CABGを行っております。CABGに関しては両側内胸動脈(BITA)を使用することが生命予後を改善するとされております。当科の多枝MICS CABGは心拍動下に平均3か所の冠動脈吻合をBITA使用にて完遂します。皮膚切開は左側胸部に8-10cmであり、肋間からの手術操作となり胸骨・肋骨を温存します。

2) 心臓弁膜症全般

多くが右側胸部に皮膚切開を8cmおいた、大動脈弁置換術(MICS AVR)、僧帽弁形成術もしくは置換術(MICS MVP/MVR)です。肋間からの手術操作となり胸骨・肋骨を温存します。MICS AVRにおいては、上行大動脈との位置関係が重要であり術前精査の結果より胸骨部分切開と比較検討し、アプローチ法を決定します。

3) 上行大動脈瘤

胸骨部分切開によって人工血管置換術を行います。通常の胸骨切開の半分の領域で治療可能となります。当科では胸骨下部部分切開を主に選択しますので術後の上半身の運動制限はほぼありません。

4) 心房中隔欠損症および心臓腫瘍

2)と同じく、右側胸部の小切開でのMICS治療が可能です。
2020年は32名の患者さんにMICSを施行させていただきました。全開心術の21.9%となり、増加傾向にあります。あわせて当科では胸部および腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療も積極的に導入・施行しております。 術後運動制限を最小限とし、早期社会復帰が可能となるMICSを今後も提供させていただきます。

疾患別治療結果

2011年5月より2020年12月まで1124名

a)虚血性心疾患(329名)2011年5月から2020年12月

当院における単独冠動脈バイパスは開設以来、心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)を全患者様に実施しております。

単独CABG
動脈グラフト早期閉塞率

b)心臓弁膜症(501名)2011年5月から2020年12月まで

大動脈弁狭窄症に対する弁置換術の実際

我々心臓外科医が手術を行う上で最も多い疾患が大動脈弁狭窄症であります。健診等における聴診で心雑音を指摘され、心臓エコー検査で判明することが多い病態です。大動脈弁口面積等の計測にて軽症から重症まで分類されますが、手術治療が必要となるものは狭窄度が重症で、この疾患による日常生活内での症状があるものが一般的であります。ただし、いくら一般的な手術であると我々が感じても、ご紹介いただく循環器内科やクリニック・開業されている先生方、そして患者様ご自身にとっては心臓手術が一大イベントであることは否めません。そこで当院における治療の一般的な内容をお伝えします。

「病院死亡率2.5%、術後2週間と5日で退院です。」

当院における過去6年間(2011-2017年)のデータを図に示しました。重症大動脈弁狭窄症に対する大動脈弁置換術(AVR)を163名の患者様に行いました。平均年齢は74.9歳であり80歳以上の方も51名、31.3%でありました。他の心臓疾患を罹患され、冠動脈バイパス術や他弁手術、大動脈瘤手術や不整脈手術を併用した割合は65%であります。約8割の方が生体弁の使用となり術後の弁周囲逆流(=手術失敗)はありません。術後平均在院日数は19.4日でありました。 単独AVRの平均手術時間は3時間半であり、ほとんどの患者様が手術当日の夕方にはご家族と会話のできる状態となります。手術翌日からの立位・歩行訓練をはじめとした心臓リハビリと食事を開始し術後3日目には一般病棟での生活となります。胸骨正中切開を要する手術ですので術後2-3か月の上半身の運動制限を要しますが、以後の生活は非常に楽なものとなります。

手術前のインフォームドコンセント

これは私どもが手術をうけられる患者様に術前にお話しする内容です。

  • 手術創:胸骨正中切開、もしくは小切開(MICS)
  • 手術時間:3-5時間
  • 手術による死亡率:約3%
  • 術後在院日数2-3週間
  • 費用:高額医療の適応となるので年齢・収入にもよりますが4-15万円/月

「エコーでは重症だけど症状がないんだよね、、、」

これは私どもがご紹介いただく先生方とお話しする内容です。正直悩みどころとなります。症状があるのであれば内科の先生方も患者様に手術治療の必要性を伝えやすいところですが症状がないとなりますと決定打に欠けます。我々も様々な観点から術前、いわゆる無症状とされている患者様方に大動脈弁置換術を行う機会があります。ただ、意外と手術後に患者様方からは「体が楽になった」「深呼吸がしやすくなった」「声量がでるようになった」「疲れやすさがなくなった」、等のお声をいただきます。ご本人様が無症状と言われてもご家族が数年来や最近の経過から「調子が悪くなってきている」等のお話しをいただき手術になることもあります。医師サイドからはBNPの経時的な上昇やCTにおける大動脈弁位石灰化が強いこと等からも手術になることがあります。 無症状ということでも放置した場合に数年以内での心不全イベント等を発症し、その可能性が置換術のリスクより高いことはままあります。患者様ごとに状況は異なりますが、「無症状であっても手術治療を行ったほうがよい場合も多くあります」、ということを皆様にはお伝えさせていただこうと思います。手術適応等につきまして悩まれる場合がありましたらいつでもご連絡ください。軽症で手術適応のない方でも、将来的に病態が進行した場合にどうなるのか?といった件でもよくお話しをさせていただいております。

重症大動脈狭窄症に対する弁置換術

僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成術の実際

僧帽弁に対する手術治療は施設や心臓外科執刀医の考えや治療成績が如実に反映される治療であります。当院の僧帽弁治療に対するコンセプトを詳述させていただきます。

  1. 僧帽弁置換術
    僧帽弁狭窄症や感染性心内膜炎で弁輪破壊のあるもの、あるいは左室拡大によるtethering(tenting height 10mm以上)の患者様に対して行っております。
  2. 僧帽弁輪形成術
    おもに弁尖障害のない単純な弁輪拡大症例、軽度tethering例、大動脈弁置換時の中等症僧帽弁閉鎖不全症に対して行っております。
  3. 僧帽弁尖形成術(いわゆる形成術)
    弁尖逸脱例、感染性心内膜炎における弁尖破壊例に対して行っております。

一般的に形成術が心臓生理(左心室形態:Mitral complex)を考えた場合に良いとされますが、病態、患者様の年齢、形成術と人工弁を比較した際の遠隔成績等を考慮して術式を選択するようにしております。年々、僧帽弁に対する手術も増加しております。

「形成術の成功率98.5%、術後2週間と2日で退院です。MICS(低侵襲心臓外科手術)による治療を52.2%の方に行っております。」

当院における過去9年間(2011-2020年)のデータを図に示しました。重症僧帽弁閉鎖不全症(逸脱症)に対する僧帽弁形成術を66名の患者様に行いました。平均年齢は56.3歳であり、他の心臓疾患を罹患され、冠動脈バイパス術や他弁手術、大動脈瘤手術や不整脈手術を併用した割合は74.0%であります。形成術を予定して手術に臨み、形成術で逆流を制御し手術を終えた(形成術完遂度)患者様は98.5%でありました。1名の患者様が人工弁置換術となりました。大事なことは僧帽弁の逆流を消失させることにあります。そのため、形成術を行っても術後に残存逆流を認めると人工弁置換術を行った方がよいのでは?ということになりますが、97.0%の方が逆流1度以下で退院されております(完全消失が72.7%、trivial 13.6%、1度 10.6%)。病院死亡はなく、術後平均在院日数は14.5日でありました。 ほとんどの患者様が手術当日の夕方にはご家族と会話のできる状態となります。手術翌日からの立位・歩行訓練をはじめとした心臓リハビリと食事を開始し術後3日目には一般病棟での生活となります。2019年よりMICS(低侵襲心臓外科手術)を積極的に導入し、治療にあたっております。

手術前のインフォームドコンセント

これは私どもが手術をうけられる患者様に術前にお話しする内容です。

  • 手術創:胸骨正中切開、もしくは小切開(MICS)
  • 手術時間:3-4時間
  • 手術による死亡率:約1-3%
  • 術後在院日数2-3週間
  • 費用:高額医療の適応となるので年齢・収入にもよりますが4-20万円/月
重症僧帽弁逸脱症に対する形成術

c)胸部大動脈瘤(230名)2011年5月から2019年12月まで

当科における胸部大動脈瘤は多くが上行もしくは弓部大動脈瘤であり、大動脈弁疾患を合併された患者様がその半数を占めております。手術死亡は2.6%でありました。胸部大動脈瘤に対する治療は、通常の人工血管置換術とステントグラフト治療の両者を検討し治療を行っております。 急性A型大動脈解離は発症から48時間以内に50%の方がお亡くなりになるとされる致死的疾患です。治療は原則、緊急手術による人工血管置換術が必要となります。当院では開設からの8年間で81名の方々に緊急救命手術を施行させていただきました。患者様の平均年齢は67.4歳であり男性47%の性差比率でありました。全患者様に緊急手術を施行させていただき病院死亡は4.9%でありました。当科では迅速な受け入れから、上行大動脈送血(全患者様の95%)までの時間を短縮化させ大動脈解離本態の臓器血流障害を最小限としております。また、手術で要する人工心肺操作に改良を加え従来、大動脈解離手術で問題となっていた出血問題を解決しております。そのため術後の出血はほぼなく、手術室での人工呼吸器からの離脱も46.9%です。全国のA型大動脈解離手術の病院死亡が平均9%とされるなかでの当院の成績は容認される内容であります。ただし術前状態等の要因にて合併症発症はある比率で認められ、これらの改善に取り組んでおります。今後とも積極的な受け入れを実現し患者様の救命に臨みます。

当院における急性A型大動脈解離手術成績1
当院における急性A型大動脈解離手術成績2
当院における急性A型大動脈解離手術成績4

80歳以上の高齢患者様に対する心臓胸部大血管手術治療の結果<br>(2011年5月より2018年12月までの退院患者様)

80際以上の患者様に対する開心術
2018年の開心術における80歳以上の患者様は全体の25%

ご高齢患者様に対する心臓外科手術は、患者様やご家族様が大きな不安を抱えてこられることが多いのは事実です。不安の理由は、「果たして手術を乗り切るだけの体力があるのかどうか?」といったものです。術前状態によってもかわりますが、当院で手術を受けられた147名の80歳以上の患者様方の術後経過や結果から、80歳以上であること(=ご高齢であること)だけで手術の妨げとなることはありません。体力が若年者に比べると劣ることは否めませんが、それを見越した詳細な術前評価や術後の積極的離床・リハビリによって、術後平均在院日数は約23日となっております。当院における最高齢手術は98歳女性のA型大動脈解離手術ですが、術後15日でご自宅退院されました。多くの職種が集中的に退院までのサポートにあたるハートチームによって、安全かつ確実な医療に取り組んでおります。

透析患者様に対する心臓胸部大血管手術治療の結果(2011年5月より2018年12月までの退院患者様)

透析患者様に対する開心術
全開心術における透析患者様は13.9%

透析を受けられておられる患者様の開心術を、開設から8年間に116名行っております。 紹介いただく先生や患者様ご自身様から、「透析していることがかなりのリスクにはなるのですよね?」との質問をいただきます。私どもの見解としては、「確かに通常の透析を受けられていない患者様方よりはリスクのある手術になります。 ただ、透析患者様に対する特別な対応を行い、周術期合併症や死亡率を減らすことができます。」 とお答えさせていただいております。 116名の患者様の内容としては、男性が約6割、平均年齢67歳でありました。 心臓弁膜症が53%と多く、次いで虚血性心疾患37%、胸部大動脈瘤10%の内訳です。平均在院日数は術後約1か月、病院死亡率は7.7%でありました。 重要なことは、この7.7%の病院死亡をどうとらえ、患者様方へ対応していくかということであります。 虚血性心疾患に対する手術は全例、心拍動下冠動脈バイパス術を行い病院死亡はなく、冠動脈に吻合したグラフト(自己血管)開存は100%でありました。 冠動脈への吻合数は平均3.33箇所であり、両側内胸動脈を通常どおり使用し、遠隔成績を考慮したバイパスを行っております。 非透析患者様と同等、あるいはそれ以上の治療成績で治療が行えている結果です。 心臓弁膜症手術における病院死亡は7名、11.5%と高いものです。ただし、7名のうち5名は感染性心内膜炎、いわゆる重症感染症に陥った状況での緊急手術でありました。 透析患者様で、敗血症に至った状況での弁膜症手術は心臓治療が完遂できても術後の残存感染に打ち勝つ体力が残っておらず死亡に至る経緯を経験しております。 こういった経験から、我々の施設では透析患者様の感染症は早期対応を行うことで近年の治療成績を上げております。循環器内科や透析医への啓蒙を行い、 早期にご紹介いただき必要な心臓外科手術を低侵襲で行うことで直近3年間の治療成績の改善を認めております。患者様方にもこの点は強く自覚していただきたいと思います。 胸部大動脈瘤手術における病院死亡は2名、16.7%でありました。 重症感染症によるものと大動脈動脈硬化が非常に強い方へ行ったステントグラフト留置で腸管虚血を発症した患者様でありました。 当科における透析患者様に対する心臓外科手術で考慮する点は2点です。 上述した内容の繰り返しでありますが、術前状態で重篤な感染症を原因とした疾患である場合、病院死亡が10%を超える治療成績を経験してきました。また、非閉塞性腸管虚血で2名の方が病院死亡に至っております。全身大動脈の高度石灰化を認め、腸管動脈の血流が非常に悪い方でありました。そのため現在は下記内容で透析患者様への積極的な治療対応を行っております。

  1. 感染症関連の心臓病に関しては、早期に外科治療を行い、感染巣を完全除去。全科を上げた術後全身管理にて体力低下を防ぐ
  2. 術前精査で動脈硬化の非常に強い方には、術直後の透析対応を通常透析とは変えて慎重に行う

これらの対応を行い、透析患者様方への心臓大血管手術を行っております。治療成績は年々改善され、現在、透析されているということが大きなリスクとはならないと考えております。透析患者様方はより慎重な全身評価と低侵襲手術、全科対応の術後管理を要しますが当院はこれらを実現しております。 お困りの方々がいらっしゃいましたらいつでもご相談ください。